顔真卿展
夜間開館、閉館一時間前になっても、顔真卿《祭姪文稿》だけは60分待ち。
沢山の書があって、驚くほど端正で美しいものばかりなのに、
その中でも選りすぐりの名筆と言われるのは、
この、悲しみで歪んで掠れて書き直した《祭姪文稿》なのだ。
こういう様子をまざまざと目の前にすると、美術史というのはそのまま、人の心が何に惹かれてきたのかを辿っていくことなのかも知れない、と思う。
顔真卿は書だけど、絵画や彫刻も同じで、
例えば紀元前の彫刻を見ることで、遠い昔の人がそれを観て美しいと感じた、その心の動きに触れることができるように、
作品から透けて見えてくる人の心に惹かれて、私は美術館に行っているのかもしれない。
それは活字で綴られた詳細な記述よりも鮮やかに、色々なことを教えてくれるような気がする。
あと個人的に見れて良かったのは、則天武后の書。というのも、最近彼女について書いた本を読んだので…
中国人の作家が、フランス語で書いた則天武后の物語の日本語訳…というちょっと複雑な背景の本なんだけど、
詩を書く人だそうで、とにかく文体が詩的で美しい。(ちなみに、バルテュスの秘書をしていたこともあるそう)
ファンビンビン演じる妖艶な美女とはまた違ったイメージで、中国史上唯一の女帝の数奇な生涯が描かれていた。
それがあまりにも劇的な生き様だったので、半ば物語の中の人という気がしていたのだけど、
今回彼女の書を見て、本当に実在していたんだよなぁと不思議な気持ちになった。
男性ばかりの中で、やはりどこか女性らしく華やかな…イメージにぴったりの字だ。